1990年代初頭、機械式時計で一躍脚光を浴びた時計界のスーパースター・フランク・ミュラーは、もともとはスイスで独立時計師として活躍していた人物です。ジュネーブ時計学校を首席で卒業し、愛好家のオーダーで1点ものの製作をしたり、アンティーク時計の修復に携わったりしていましたが、80年代後半からスプリットセコンド、パーペチュアルカレンダー、ミニッツリピーター、トゥールビヨンなどを組み入れた腕時計の製作によって、「ブレゲの再来」とまで絶賛されました。

「フランク・ミュラー」という自分の名前を用いたブランドを創設したのは1992年で、それ以降も、複雑時計の開発にかけては世界の第一人者であり続け、特許の取得数や世界初の記録などでは他の追随を許しません。多数の複雑機構を組み込んだ彼の腕時計が、スイスの時計産業に及ぼした影響の大きさは計り知れないほどです。

フランク・ミュラーは、伝統的な複雑機構だけでなく、現代人にマッチした洗練されたデザインの創出においても高く評価されています。機械式時計にもかかわらず、優美なデザインで堅苦しさを微塵も感じさせないのは、彼ならではのセンスの表れでしょう。

フランク・ミュラーで最も有名な腕時計といえば、「トノウ・カーベックス」という立体的な曲線で構築された湾曲トノウケースです。20世紀初頭の腕時計にはしばしば見られていたデザインですが、長らく歴史に埋もれていたこのデザインを現代に蘇らせることができたのは、やはりフランク・ミュラーならではのセンスゆえのことでしょう。ノスタルジックなデザインの文字盤は、フランク・ミュラーの腕時計の代名詞と言っても過言ではありません。

「トノウ・カーベックス」から発展させたデザインは、「クレイジー・アワーズ」や「ヴェガス」といった特殊機能搭載のモデルの開発にも生かされています。革新的な技術に支えられた複雑機構と、このブランドならではの独特のデザインが、フランク・ミュラーを現代の高級実用腕時計の代表にまで押し上げたと言えるでしょう。